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彼に、探しに行かなければいけないという使命感はない。
自由奔放な栗毛のふわふわを、あえて追いかけようとは思わなかった。
せめて、生徒会の集まりには出席するようにと、生徒会長が彼を使いに出す。

それに従って迎えに行く。


これが毎回の流れだ。



はじめはひどかった。
彼女は授業さえもボイコットしていた。
カランとした空席に誰も口を出さない。
気に求めない。

昔から浮いていた彼女は、そのおかげでさらに浮いていた。


教師でさえも、口をだそうとはしない。



梶谷学園------金持ち御用達のマンモス校。
様々な業界の七光りたちが集まり、ほとんどの生徒が幼稚舎からエスカレーター式でここまで来ている。


下手すれば金にモノを言わせてどうにかされてしまいそう、そんな恐怖感からか、教師は生徒にあまり強く言えない印象がある。




そんな彼女を初めに注意したのは彼、樫雪慧だった。
わざわざ授業中に席を立ち、孤独な影を探した。
保健室や、体育館裏、理科準備室など様々なところを回った。

そうして、初めて彼女を中庭で発見したことを慧は今でも鮮明に覚えている。








「なにこれ!わたし花束受け取る役なの!?」

「お前俺が先週さんざん言ったのに覚えてにないのか」






生徒会室は今日も騒がしい。
来週卒業式を迎える三年生が、その段取りの最終調整を行うために集まっていた。






「慧」






かけられた声に、声色に、全てを悟る。
嗚呼、迎えにいけということか。
振り返ると、生徒会長である要冬真【かなめ とうま】が、分厚い紙の束を捲りながら目線もかえずに彼を見る。




「あいつむかえにいってこい。もうはじめるってな」