「ハルちゃんせんぱいこそ、なにしてるの」



「おれ?おれは園芸部だよ」



知ってる、悠海は心の中で毒づいた。
彼女と彼、枡古春貴【ますこ はるき】は生徒会の間柄。ある程度のプロフィールは理解している。



「ちゃんといえばいいのにー」




春貴は見透かしたように、ただあどけない笑みを浮かべる。
悠海の不機嫌を余所に、彼は言葉を続けた。





「むかえにきてって、ユキくんに」




より一層強い風が、二人の間をすり抜けていく。
彼は見透かしたように、しかし子供をあやすようにしゃがみ込み、頭の高さを彼女に合わせた。
土の匂いが悠海の鼻をくすぐる。



「んー、ぼくらが卒業したらきみたちは三年生だよー?ユキくんはこのままだと生徒会長!うみちゃんはー?」




「わかんないもん」




「ぼくも、リンも、クゥも、とうまも、いなくなっちゃう」




並べられた生徒会、三年生の名前。




「ぼくらがいなくなる前に、こくはくしたほう
がいいんじゃないかなー?」






--------ユキくんに






そう言い残し、春の風に連れられて春貴は園芸部の部室である倉庫に消えていった。




ユキくん





彼がそう呼ぶ人物の正体は、樫雪慧【かしゆき さとる】、同じクラスの同じ生徒会の役員だ。

金髪の髪は女性のように艶やかで、冷たいながらも言葉のはしは必ず優しい。

多少の釣り目のせいで人に怖がられがちだが、誰よりも真っ直ぐで差別無く、素直であることを彼女は知っている。


そんな真っ直ぐな彼を、彼女は待ち続けているのだ。



この奇怪な行動は学園内で有名な話だが、誰かが問いただすわけでも、訳を聞いたりするわけでもない。



悠海の、憂鬱に似た溜息は春の風と共に、冷えて凍った青い空を少しだけとかして消えた。