……ああ、違ったのかもしれない。

自分の中の本当の気持ちに気付いたのは、そんな瞬間だった。

最初はただ、わたしが好きな曲をハミングしている人という認識しかなったけど。そのハミングを聴けば聴くほど、そこに込められた優しさが伝わってくるような気がして。

彼の楽しそうな横顔を盗み見るのが、いつしか楽しみになっていた。
ハミングで作られた穏やかな空間を、ずっと全身で感じていたいと思っていた。

でもそれは単にハミングのファンになっていたわけじゃなくて、もしかしたら――。


ある一つの感情に思考が辿り着いて、頬に一気に熱が集中する。

ちょうどその際に目の前に居る男の子と目が合って、忙しなく瞳を動かした。

……今が、夕方だったら良かったのに。

そうすれば、赤い太陽の光がわたしの染まった頬の色を隠してくれるから。春の朝の白っぽい日差しでは、この色は隠してくれない。
むしろ目立っていそうで、余計に視線が彷徨い始めた。


「……あ、そうだ」


だけどわたしの考えは杞憂に終わったらしい。男の子はわたしの様子に気付いてすらいないのかもしれないけど、ふと思い出したようにカバンのチャックを開けた。


「あの、これ良かったら、一緒に行きませんか?」

「えっ?」


おずおずと差し出された二枚の細長い紙。
今日の青空と同じ色をしたそこには、白い線で“BLUE‐HEAVEN”と書かれているのだけ分かった。


「これ、明後日の日曜日に行われるブルへブの凱旋公演のチケットです。良かったら、一緒に行きませんか?」

「え! わたしが一緒に行って良いんですか!?」


驚いて甲高い声が出ると、彼は嬉しそうに笑った。