「その曲……」

「……っ!」


初めて聞く男の子の声は、ハミングのときと変わらず優しいものだった。
きっとこんな声だろうなって想像していたとおり、透明感もあって爽やかな声。

でも今はその予想通りだった声に喜んだりしている場合じゃない。

だって何しろ彼は、スマホが入っているポケットを注視して固まっているのだ。


――彼がハミングしていたものと同じ曲が鳴る、そこを。


慌ててポケットからスマホを取り出して、うるさく感じる曲を止めた。彼がハミングすればすごく良い曲に聞こえるのに、この着信音では全然心がときめかない。

この音の方がずっと前から耳にしていたもののはずなのに、彼の音を聴いていくうちに違和感を抱いてしまうほどになった。

それぐらいもう、この短期間で彼のハミングの虜になってる。


……気付かれたかな。
着信音が彼のハミングと同じだってこと。

確証はないけど、99%ぐらいの確率で気付かれたと思う。

だって彼、明らかに何かに気付いたような表情で反応していたもの。

スマホをポケットに戻して何事もなかったように過ごしたかったけど、やけに横顔に視線が注がれていることに気付いた。気まずさが残る中で、恐る恐るそっちを向く。

すると男の子がちょうど、口を開く瞬間だった。


「……あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

「えっ」


初めて正面から、まともに男の子の姿を瞳で捕らえるのと同時に、思った以上に間抜けな声が口から漏れた。

恥ずかしさで少し身体が強張る。