それまで二人は仲が良いと言うほどではなかったのだが、あの晩餐会以来何となく行動を共にするようになっていた。
「……仕方ないだろ」
イグナスは不服そうに言う。
「でも、お前がそれだけ強い意思をもってるのはわかってるけどさ、実際、それを通すのは難しいと思うよ」
カルロはふと口調を改めて言った。
「……何でお前にまでそんな事言われなくちゃならないんだ」
一方、言われたイグナスはいっそうげんなりしながら肩を落とす。
忘れていたが、往々にしてイグナスと同じ成績の彼だが、あの授業だけは違ってかなり良い部類に入っていた。
晩餐会で令嬢とその使用人にナンパまがいの自己紹介をするほど愛想の良い彼にとって得意分野なのだろう。
「いや本当にさ。不本意かもしれないけど、その貴族たちに気に入られなきゃ出世出来ないんだしさ」
「……別に、俺は出世したいわけじゃない」
彼の反論を気にする事なく、カルロは続けた。
「さっき貴族出の司令長官とかは何もしてないって言ってたけど、そう言う奴らの出資のお陰で経営が成り立ってるのも事実なんだから、さ」
「…………」
イグナスは黙りこんだ。今カルロが話した事は、今までで初めての全く新しい見方だったのだ。
「……でも、生まれで立場が決められると言うのは、どうしても納得出来ない」
「その気持ちも分かるけど、それをどうこう出来るだけの権限は俺らにはないんだからよ」
「…………ああ、そうだな」
イグナスも頷く。
「──コヴァート、クロース、ちょっと良いか」
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