あなたが教えてくれた世界




彼女は小柄だが太めな肢体をしていて年の頃は中年。生徒達から影で『カエル』と呼ばれる風体をしている。


そして、イグナスはこの学校の教師の中で一番彼女が苦手だった。


それもそのはず、彼の成績はクラスでもトップレベルの悪さである。


そして彼女もまた、この無愛想な少年に礼儀作法を叩き込もうとやっきになっているのだ。


「……それでは、上流階級出身の司令長官に、個人的な食事などに誘われたら、コヴァート、あなたならどうしますか」


イグナスは即答した。


「断ります」


エルビス女史は眉をひそめた。


「それはなぜですか」


「そんな事のために訓練や休息の時間を割きたくありません」


隣のカルロが慌てて肘でつついて囁く。


「おい、やめとけって……」


だが、もう遅かった。

エルビス女史が声を怒りに震わせて言った。


「そんなこととは何です!!長官の方に誘われたら何よりも優先しようとするのが礼儀と言うものです!!何度言ったら直るのですか!!」


「じゃ、質問なんですけど」


イグナスも負けじと声を張り上げる。


「貴族出の司令長官って言ったら、立場ばっか偉いけど実際なにもしてないような奴ですよね。なんでそんな奴にヘコヘコしないといけないんですか」


「……あ、あなたは何を考えているのですか!!」


女史の怒りが最高頂に達した。


その後の授業時間は、彼女の説教でつぶれる事となった。






「ちょっとは考えろよなー……」


演習場へ行く途中、カルロがイグナスにぼやいた。



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