異国排斥思考が一番強いのは王家であり、皇王が外国人の女と子作りをするのは禁忌を犯すようなものなのだ。
(って事は、オリビアさんは……)
彼女の視線を受けて、オリビアは自嘲気味に微笑む。
「あなたの察した通りよ。私は存在自体が否定されている、異端の子なの」
「そんな……」
「母はプラニアスの貴族だったの。晩餐会で皇王様と出会い恋に落ちて、私が生まれてしまったわけ」
オリビアの話を聞きながら、アンは彼女が皇王の事を『父』と呼んでいない事に気付いた。
それは、母親を不幸にさせた事による憎しみから来るのか、言うことなど許されないと自分を戒めている事から来るのか……。
「それでも私が五歳になるまでは、その事実を隠されてたから平和だったの。私は母と二人で穏やかに暮らしてた」
そこで、オリビアの口調が暗くなった。
「……でも、うっかり使用人が口を滑らして、私の存在を漏らしてしまったの。その時の貴族たちの反応を今でも覚えてる。特に女王様はすごかったわ。その日のうちに、母をこの国から追放させたの」
「それじゃ、オリビアさんは……」
「私も一緒に行く予定だった。でも、自分の家に縁を切られていた母は、戻っても私と共に暮らしていけないと判断して、秘密裏に一人の侍女に私を預けたの。そして、名目上は子供と一緒にと言う事にして、出発していったわ」
アンは何も言えなかった。
「でもすぐに、その侍女のおばさんが事故にあって死んでしまったの。頼る人が誰もいなくなった私は、食いぶちを稼ぐためにここで働き始めたの。最初は、庭師のおじさんのお手伝い。それから、調理場の掃除、食糧庫の管理」
「今の仕事には、いつから……?」
「半年後よ。“異端の子”が王宮にいるって噂を皇王様が耳にして、食事と寝る場所を与える代わりに、アルディスの身辺の世話を命じられたの。一応姉妹だったし、話し相手にでもと思ったんじゃないかしら。だから私、皇王様には感謝してるのよ」
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