アンは視線を落として答えた。
「あの、オリビアさんがお嬢様の、その、姉君である……と聞きました」
オリビアはふっと息をつく。
「本当よ」
「えっ……」
彼女はもう一度頷いた。
「本当の事。もっとも、腹違いのだけどね」
「そうなんですか……」
「私の母の事は、何か聞いている?」
アンは、この質問にも正直に答えた。
「聞きました……。確か、王妃様ではなかったとか」
オリビアは不自然なほど冷静だった。
「そうよ。妾ですらなかった。と言うより、王族と相入れてはいけない立場の人」
「えっ……?」
「母はね、プラニアスの人だったの」
それを聞いて、王宮で日の浅いアンにも意味がわかった。
イルシオンの王侯は、自分がイルシオン人である事に誇りをもっている。と同時に、政治などに他国籍の人種が入ってくるのを嫌う。
だからこの国の貴族達はもちろん、軍部の上官たちもイルシオン人以外の者はいない。
それはある意味、アンにはものすごく関係の深い事柄だった。
イルシオンの血が流れていないと言うだけで、使用人のアンにも周りの目は厳しい。
と言うことは、オリビアの母親もこのような逆境にいたのだろうか。
何となくそう思った時、アンはある重大な事実に気がついた。
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