あなたが教えてくれた世界




ある日、また晩餐会に行こうとしなかったあの子に一人の使用人が言ったの。『お嬢様、いつまでそうなさってるのですか。お嬢様は王女のリリアス・デ・イルシオンなのですよ』って。


それを聞いたあの子が、久々に言葉を発したの。


『私は、リリアス・デ・イルシオン……』って。


そのあと、瞳に不意に光が戻って、あの子は立ち上がって言ったの。


『分かりました。リリアスは晩餐会へ参ります』って。微笑んで。


みんなは、『アルディス様がもとに戻った』って喜んだんだけど、私は素直に喜べなかった。


何となく感じたの。『ああ、これまでのアルディスはもういなくなったんだ』って。


それは多分当たってると思うわ。晩餐会とかでのあの子はちゃんと社交的だけど、私が知ってるアルディスではないんだもの。


なんと言うか、あのリリアスは宮廷に染まりきってるの。腹を見せない所とか、反対に探る所とか。もちろん薄くではあるんだけどね。


でも、アルディスはもっと真っ直ぐな子だった。お茶目な所もあったし、頑固な所もあった。


だから、あのリリアスは、アルディスでは無い……と信じたいのよね。普段のとの変わりようも見てるし。


あと気になる事はね、リリアスが社交的になって、元気になればなるほど、あの子という存在だんだん希薄になっていくの。


今年の新年のとき、あの子はリリアスになって王家の挨拶に参加したの。そのあとだったわ。


あの子、自殺しようとしたの。


自殺って言うのはちょっと違うかしら……。リリアスが、アルディスを殺そうとしたの。


間違いないわ。リリアスは、アルディスを憎んでいる。


あるいは、それはアルディス自身が自分を憎んでいるのかもしれない……。


つまりね、何も出来ない自分を邪魔だと思ってるって事。



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