あなたが教えてくれた世界




「あなたに、ついて行くから」

ハリスの瞳を覗き込むようにしてそう告げると、彼は一瞬驚いたように覗き目を見開き、それから大きく息をついた。

「──ありがとう、オリビア。君にはいつも救われる」

まるで自分に言い聞かせるようにそう呟き、それから、ふと遠くを見つめ。

「……僕は、僕のすべきことをするよ」


そう言う青灰色の瞳は、静かながら、激流の中でも揺らがぬ大岩のような強さをたたえていた。




      *  *  *




その日は夜になっても、カルロは戻ってこなかった。


「……」

夕飯を終えるとアルディスをオリビアへ任せ、三人の騎士は誰からともなくの部屋の前の廊下へと集合していた。


「……そろそろ、タイムリミットだと思うんだ」


ハリスが重々しく口を開く。

イグナスとブレンダは、言われなくとも何の話をしているのかはわかっていた。

「ブレンダ、カルロは裏路地のパブにいたそうだね」

話を振られた彼女は、黙ってその問いに頷く。

ハリスは小さく息をついた。

「……話したね。この間の連中の一派がこの近くに潜んでいるって。……近いんだ、そのパブと。とても。」

「……!」

彼の言葉に、二人の目が見開かれる。

「……もう、あいつを待つことは、難しいと思う」

その言葉に、二人は何も言えず俯く。

廊下に沈黙が降りた。


「……わかりました」

しばらくして、口を開いたのはイグナスだった。

「これ以上待ってもあいつが戻ってくるとは思えません。任務に参加する気がないなら、あいつ抜きで出発するべきです」

「……情報をもちながら、任務を放棄したとなると、カルロは僕達にとって排除対象になるのだけど」

「……わかってます」

ハリスの言葉に、イグナスは静かに肯定する。その表情に迷いや躊躇いは見受けられなかった。

「……君は?異論はないかい?」

ハリスは、今度はブレンダに問いかける。

彼女は先ほどから黙って床の木目を睨み続けていた。

二人の注目を浴びるなか、彼女は、

「…………、……ありません」

彼女は何かを言いかけたが、結局、ただそう頷いた。