言われるまでもなく、頬が熱くなっているのが分かる。
(私……あの時は追い詰められていたとは言え、なんてことを……!)
冷静になると、頭を抱えたくなるほどに大変なことだ。
溜め息をつきたくなる衝動をなんとかこらえ、オリビアは何事もなさそうにサンドイッチを頬張っているハリスを軽く睨むように見た。
きっとハリスは、オリビアが赤くなっていた理由を知らない。
(……ハリスにとってはなんでもないことなのかもしれないけれど……)
オリビアにとっては大問題だ。
回された腕の力強さが、包まれた温度が、囁かれた声が、背中に、鼓膜に、鮮明に蘇る。
(……なんで、そんなに、優しいの?)
口には出せぬまま、その横顔に問いかける。
いつだってオリビアを支えてくれて、味方になってくれて、話を聞いてくれて。
いや、ずっと昔から……初めて会ったあの日からずっと、オリビアはハリスに救われ続けてきた。
そんな彼からしたら、取り乱したオリビアを抱き締めて落ち着かせることなんて当たり前かもしれない、けれど。
(……苦しい……)
ただただ、胸の奥がつかえたように痛かった。
優しくされるたびに、そのことに喜びを感じるたびに。疼き出すそれに気付いたのはいつからだっただろう。
(そんなに優しく、しないで……)
声に出さないで、懇願する。
勘違いをしてしまう前に。期待をもってしまう前に。
自分一人で区切りがつけられるうちに、ハリスから離れたいと、そう彼女は願った。
「──あ、帰ってきたみたいだ」
少し無言の間が続いたのち、ハリスの口から何か言葉が飛び出して、オリビアは内心ほっとしながら顔を上げる。
「……え?」
一瞬、その言葉の意味がわからなかったのだが、ハリスにならって視線を扉に向けて、聞こえてきた足音に察する。


