あなたが教えてくれた世界




ハリスの隣にいたい。

離れたくない。

そんな想いが、願いが、あとからあとから溢れてくる。


その意味が──自身の本当の気持ちがわからないほど、オリビアは愚かではなかった。


けれど。

(だめ……)

そう遠くないうちに訪れる未来、そこで彼の横に並ぶのは、私にはなり得ない。

だから……自分はあくまでアルディスの侍女に徹して、自分の一番をアルディスにすることで、いずれ来る別れを受け入れやすくしていたりもしたのに。

どんな時だって、ハリスは私を見てくれて──私を支えてくれて。

(だめなのに……)

離れないと、いけないのに。


──彼を想う気持ちが、止められない。


オリビアは、震える唇を誤魔化すように、紅茶をもう一口すすった。

「……オリビア?」

と、彼女の様子を察知して、ハリスは覗き込むようにして声をかけてくる。

考えていたことが考えていたことだったので、オリビアはびくりと肩を震わせると、心持ちハリスから視線を逸らした。

「……えっと、何?」

平静な声を装って聞くと、ハリスは首を捻りながら答える。

「……いや、なんだか君がすごく苦しそうな顔をしているように思えて……」

「え……?」

顔に出てしまっていたのかと、オリビアは内心さっと血の気のひくような思いをしながら、慌てて首を振る。

「そんなことないわ。気のせいじゃないかしら?」

「……そう?なら良いのだけど」

幸いにもハリスはそれ以上追及してくることなく、オリビアはほっと小さく息をついた。

(やっぱりハリスの目は侮れないわね……)

彼女はしみじみとそんなことを考える。

オリビアのことをよく見ているし、変化にも敏感ですぐに気付く。

そんな風に気にかけて貰えることがとても嬉しいけれど……同時に、いつ自分の気持ちがばれてしまうのではないかと不安になる時もある。

けれど、ばれてはいけない。決して。

この想いは、オリビアの心の奥だけに、ひっそりとしまっておかなければならない。そんなことを、改めて言い聞かせるのであった。