ハリスはその姿を少し驚いたように見つめ、それから、ふっと息をついた。
「……参ったな、こんな風に面と向かって改めてお礼を言われるなんて思ってなかったから……何て言うか、僕には当たり前のことだったから」
「……うん、分かってるわ。でも、そんな風に思ってくれてることが嬉しいし、こんな機会じゃないと、お礼なんて言えないでしょう?」
オリビアは少しはにかみ、それから手元に視線を落とした。
「……私、本当にハリスがこの旅にいてくれて良かったなって、そう思っているの」
ぽつぽつと、先ほどよりも少し落ち着いた調子で、彼女は言葉を続ける。
「アルディスにとっても大きく環境が変わったでしょう?この短期間でさえ、確実にあの子は変わっているし、ただの勘だけれど、これからもっと変わっていく気もしているわ。そんなときに、ハリスがいなかったら、誰よりもまず先に私が、その変化に対応しきれなくなってしまっていたと思うの」
静かな部屋に、オリビアの控え目な声が響く。
「……だから、ハリスがいてくれて良かったなって、そう思っているわ。ありがとう」
オリビアは、ハリスを見つめてにっこりと笑った。
「……きっとこれからも沢山頼ってしまうけれど、よろしくお願いします」
ハリスは戸惑ったように視線を逸らした。
「なんだかお礼をされてばっかだけど……任せて。昔も、これからも、アルディス様のために頑張っている君を支えるのは僕の役目って決めているから」
二人は同時に、ふふっと笑いをもらした。
室内に、穏やかな時間が流れる。
(……ハリスと、こうして二人で過ごす時間が好きだわ)
オリビアは、そう思っていた。
(本当に、ハリスが来てくれて良かった。……この時間が、ずっと続けば良いのに)
そんな、自身の奥底に眠る願いに気付いて、オリビアは複雑な気分になる。
(……だめよ、そんなことを願っては。叶うはずもないのだし、それに私だって、いつまでもハリスに依存しているわけにもいかないわ……)
ぎゅ、と、ハリスに見えないように、机の下でオリビアは自分のスカートを握り締めた。


