あなたが教えてくれた世界




「お前っ……ふざけるな……!」


真面目に取り合おうともしないカルロの様子に、思わず腰に差した剣に手をかけながらブレンダは叫ぶ。


――が。


「……落ち着いて?ここ路地だけど一応街中。目立ちたくないだろ?」


今にも抜刀しそうなその手をがっしりと押さえ、カルロは至近距離から彼女の目を見据える。


ブレンダが指一本すらぴくりとも動かせないほど強く握っているのに、カルロの表情には変化がない。


覗き込んだ深い紫の瞳が、一瞬、動揺の色を映したように見えた。


カルロはそれに気付いていながらも、ふっと口元を歪めると、彼女にだけ聞こえる声で囁きを送る。


「……あのさ、わざわざ尾行してくるし偉そうに説教してるけど、何様のつもりなの?最初馴れ馴れしくするなとか言ってたけどそれはどっちなわけ?」


そして、一層声を低くして、追い討ちをかけるように続ける。


「鬱陶しいんだけど。一回一緒に戦ったくらいで仲間面しないでくれる?」


明らかな拒絶と、嫌悪感を孕んだその声。


ブレンダの瞳が、大きく見開かれた。


カルロはその瞬間にぱっと手を離すと、冷めた目でその格好のまま立ち尽くすブレンダを一瞥して、それから無言で立ち去った。


ブレンダはその場に足が縫い付けられたように、追いかけることが出来なかった。





     *   *





コンコン


控えめに扉をノックする音が聞こえて、ハリスは顔を上げた。


「どうぞ」


扉に向かってそう声をかけると、カチャリと遠慮がちにそれは開き、オリビアがそっと顔を覗かせた。


「……入っても、良いかしら?……お昼ご飯を作ったのだけれど」


「ああ。もちろんだよ、オリビア。入って」


机の上に広げていた地図やら書類やらを片付けながらそう答えると、彼女はおずおずと部屋へ入ってきた。