先に目を反らしたのは、カルロの方だった。
「……もう良いよ。信用に足りない行動したのは俺だしね……。さすがに、それくらい警戒してくれなくちゃ」
どこか他人事なその言葉に、一層ブレンダの眉がつり上がる。
「……なんでだ……」
ぼそりと、彼女の呟きが漏らされる。
「……なんで、なんで何をしていたか言わない!私はお前のあとをつけていたんだぞ!?不快に感じるならなぜ、誤解だと言わないんだ!」
「……だって、誤解とも限らないじゃん」
感情的に、声を荒げるブレンダと違い、カルロは不気味なほど冷静に、そう言葉を返した。
「……どういう意味だ?」
いつの間にか二人のいる裏路地には人気がすっかりなくなっていて、しんとした通りに彼女の声だけが響く。
「お前は、自分に向けられた疑念が誤解じゃないと……そう言いたいのか?」
カルロはブレンダの瞳を見て、ふっと笑いだしそうになるのを堪えた。
誤解じゃないと、俺は君達の味方だと、そう言ってほしいと願っているようなその瞳。
新しく出来た仲間を信じたいというような真っ直ぐなそれ。
それが、かつての自分と重なって──とても、馬鹿馬鹿しくなった。
誤解だと伝えたら、きっと簡単に信じてくれると思う。けれど、その行為に意味は?
「……さあね」
だから、敢えて否定も肯定もせずにそう答えると、彼女の瞳は一瞬見開かれ……それから、静かに殺気にも似た怒りが立ち上った。
「……ふざけるな」
静かな、けれども確かな怒りを孕んだ声が、彼女の唇から漏れる。
「……いい加減にしろ。答えをはぐらかすな……!私はアルディス様を裏切る奴は許さないつもりだ。お前は……、私は、お前を信用しても良いのか?」
きりりと吊り上がった眉と、鋭い声。
それを真正面から受けながら、カルロは面倒そうに息を吐き出した。
「……好きなようにすれば良いじゃん。何で俺に聞くの?」


