探るようにその姿を見つめた、その瞬間。


「……おい、アルディス」


不意に後ろからイグナスの声がかかり、彼女の意識は一瞬、そちらへ向けられる。


「あっ……」


はっとしてから視線を前に戻すと、先ほどまでそばにいた神官は、もう人波に紛れて見えなくなるところだった。


「……」


呆然としたまま、しかし追いかけることも出来ずにいるアルディスに、イグナスは怪訝そうな目を向ける。


「どうした?」


「あ……えっと……」


口ごもるアルディスに胡乱な視線を向けて、それからイグナスは声を潜めて、アルディスに聞く。


「さっきの奴、知り合いか?」


その問いに、彼女は思わず身を固くする。


今更ながら、突然名前を呼ばれた恐怖が蘇ってくる。


先程の神官めいた者。あれは何だったのだろう。


そう言えば、彼からは不自然なほどに何の感情も伝わって来なかったことを思い出す。


何故か彼女の名を知っているようだったのも不気味だし。


けれど。


「……知らない人」


そう言ってアルディスは、ぷいと人垣から目を逸らした。


今は考えることを、頭が拒否していた。


「……ふうん。なら良いけど。」


それ以上の興味もない様子でイグナスは彼女に倣い視線を外す。


「護衛は今から俺だ。」


今更ながら告げられた言葉に、ブレンダは宿に戻ったのかと理解し、あれ以上無理をさせなくて良かったとアルディスはほっとした。


「それと……、町、見てまわるんだろ?」


そう言われ頷くと、当たり前のように右手が差し出される。


「人が多くなっている。俺から離れるなよ」


無機質なその言葉に、アルディスは黙って従うように左手を繋いだ。