離れていく茶髪の後ろ姿をぼんやりと見つめ。
それからブレンダははっと我に返って、待っているのであろうアルディスのもとへと戻る。
(……何を、考えているんだ、カルロ)
漠然とした不安と、もやもやした苛立ちが彼女に付き纏う。
「……お待たせして申し訳ありませんでした。……行きましょう」
アルディスのもとへ着いてそう告げるが、内心を見透かしたように彼女は不安げに覗き込んでくる。
「……何かあったのですか?」
「……っ」
その目を真っ直ぐに見ることが出来ず、ブレンダは言葉を詰まらせた。
「……何も、ないですよ」
一拍の後、どうにかそう言うが、恐らくその表情は無理をしているように映るのだろう。
──まだ、何も。
不意にそんな言葉が思い浮かばれて、びくりとした。
(……まだ、まだ何も起きていない。)
──これから何が起こらないとも限らない。
耳の奥で、そんな声が聞こえた気がした。
先ほどの伺い知れぬ表情や、『これからのことを考えている』という言葉が脳内を駆け巡る。
(……やめろ)
今この場で考えるべきではないと考え直し、ブレンダは慌ててその思考を追い出した。
その時。
「……帰りますか」
不意に紡がれた言葉に、ブレンダはきょとんとした視線を返す。
それからはっと、自分が疲れているのではとアルディスに心配されていることを認識する。
「そんな、大丈夫ですよ、問題ありません」
「……交代は」
すぐに否定するけれど、アルディスは聞く耳を持たない様子で、今度は見張りの交代を要求してくる。
実際朝からずっと護衛としてついているが、本来ならとっくに交代している時間帯である。
カルロと話していた時にはそんなことすっかり忘れていたのだが。


