オリビアは更に、言葉を続ける。
「戸惑うのも無理はないわ。アルディスのあんな状態は明らかに良いものではないもの。だから私は、主人格であるアルディスにもう少し社交性が身に付いて、リリアスが自然と消えていくことを願ってるんだけど……」
彼女が悩ましげにふう、と息を吐いた。同時にまた、室内には静寂が戻る。
その話を聞きながら、イグナスは先ほどのアルディス──リリアスと言うらしいが、とにかくその様子を思い出していた。
気品に溢れて、優雅で落ち着いていて。誰もが思い描く皇女の姿で、微笑みすら浮かべながら、彼女は説明をしていた。
──その姿を思い出すと、少しだけ、気分が悪くなった。
あの目、あの目が気に入らない。いや、表情も、喋り方も、全てが。
完璧すぎて、人間のようではなく思えて、それが気持ち悪い。
昼間の鉄面皮がたまに剥がれて覗く、不器用なあどけない表情の方が人間らしかった。
そして、それを当たり前のように話すオリビアにも、何故か腹が立った。
「……あんただって、利用してるじゃないか」
理由のわからない苛立ちをそのまま、低い声を発すると、オリビアはびくりとしてこちらを見返してきた。
「……どういう意味?」
聞き返され、深く考えずに、イグナスは思っていることを連ねる。
「リリアスが消えていくことを願ってるとか言っといて、あいつをそのリリアスとやらにならせて説明させてるのはあんたじゃないのか。本当にそうしたいならリリアスにならせないべきだろう。なのにそうやってあいつ自身が社交性をなんて理不尽なこと求めてるから、あいつはますます悪化していくんじゃないのか」
イグナスが発する言葉の一つ一つがオリビアの表情に、驚愕を刻み込む。
「第一そのリリアスってのが出来たのだって、あんたが皇女らしくとか考えてるのを感じ取ったからじゃないのか?一番近かったっていうあんたがそれを求めたから、あいつは……」
「コヴァート、そのくらいにしろ」
堰をきったようなイグナスの言葉は、しかし、横から飛ばされたハリスの低い声に遮られた。


