オリビアの言葉が終わると、まずカルロが深く息をついた。
「正直……皇女だとか読心術だとか、突飛な話ばっかで信じられないんっすけど、とりあえず、オリビアさんがアルディスちゃんにその力があるんだと信じてるってことはわかりました」
「……そう」
その答えに、オリビアは静かに頷く。
部屋の中に、居心地の良くない沈黙が舞い降りる。
「……あの……」
その時、ブレンダが控えめに手を上げた。
「なに?ブレンダ」
ぱっとオリビアの視線が向かい、彼女は若干身を竦めた。
「……質問が、あるんです。先ほどや屋敷に向かう時、アルディス様がそれまでとは別人のようになられていて……。それから名乗る時もリリアスと言う名を使われていたので、今後どちらで呼べば良いのかも疑問です。」
オリビアは半ば予想していたその質問に、しかし一瞬だけ息を止まらせた。
今まで堂々としていたはずの彼女のそんな姿に、怪訝な視線が集まる。
「……あれは、さっきの、堂々としていたのは、リリアスよ。……アルディスの中に眠る、皇女としてのあの子。」
やがて、重々しい間のあと、オリビアはゆっくりと口を開いた。
意味をはかりかねている三人を前に、彼女は言葉を砕いて説明をする。
「……あの子の読心術、それは、制御出来ない力なの。聞きたくない感情や考えも、容赦なく耳に入ってくる、そんな力なの。……小さい頃、アルディスはその力が原因で、大きなトラウマを負った。彼女は滅多に笑わなくなって、あの通り人形のようになってしまったの」
オリビアの言葉に、三人はそれぞれ、昼間のアルディスの生気のない仮面を張り付けたような表情を思い出した。
「でもそれだと、公の場に出なくてはならない皇家の人間としては困るわけで……。リリアスはそんな中でアルディスが生み出した、もう一人の、完璧な皇女としての人格なの」


