扉が閉まると、部屋には沈黙が訪れた。
「……ハリスさんは、知ってたんですか」
少しした後、イグナスが控えめに、しかし鋭い視線をハリスに向ける。
「……ん、まあね」
突然質問を振られたハリスは、一瞬驚いたように顔を上げたあと、しかし動じずに答える。
「たまたまオリビアとアルディス様とは旧くからの付き合いがあったからってだけで、僕だけ個別に知らされてたわけじゃないんだけど」
続けてハリスから聞かされた説明に、しかし彼は言葉を返さずに黙って頷いた。
再び、沈黙が……今度は居心地の悪い沈黙がやって来る。
隣のカルロも、その向こうにいるブレンダも、そしてイグナス自身も、何を考えているのかわからない、そんな空気。
「…………」
暫く全員が、何も言葉を発しないまま、やがて。
「……お待たせしました。」
やがて、控え目な扉を開く音を響かせて、オリビアが戻ってきた。
「アルディスを、寝かせてきました……。あの子はもう疲れているはずだから、どうか先に休むことを許してあげてください。」
……疲労の溜まった状態でリリアスになると、戻ったときにアルディスの人格へ害が出ることもあるから早くもとへ戻した、ということは言わずに、オリビアはそう言って頭を下げる。
「続きは私から説明します。……何か、質問のある方は?」
そう問われると、すぐにカルロが反応した。
「じゃあ、さっき答えてもらえなかったんすけど……何で、そんな隠し事をして俺たちに依頼をしたんすか。その理由が知りたいっす。」
彼の質問に、オリビアは片眉を上げ、それから小さく息をついた。
「……じゃあ逆に聞くわ。もし、最初から皇女だと言われていた状態で依頼をされていたら、あなたは受けていた?」
質問に質問で返され、カルロは一瞬悩みながら答える。
「んー……、正直、受けてなかったかもしれないっす。そんな面倒ごとには関わりたくないっすし……」
オリビアはその答えに一つ頷いた。
「そこなの。皇女の護衛なんて言ったら難易度も跳ね上がるし、そもそもが褒められた旅じゃなかったから、あなたみたいにやっかいごとに巻き込まれたくないって嫌厭される事態は充分考えられたから。……それに、最近は皇家への反感も強くてね。恨みをもつ人間が参加して、アルディスに復讐しようと考える可能性も捨てきれなかったから。……理由はこれで以上よ。」


