あなたが教えてくれた世界




「……ふうん。じゃあ皇女様は、和平問題を先延ばしにするために皇都を逃れたってわけか」


半時過ぎて、彼女の説明を聞き終えたカルロが腕を組んでそう口にした。


「……そういう、事になります」


彼の言葉を否定出来ない彼女は、俯いてそう答えた。


「クロース、そんな言い方は……」


ブレンダが控えめにカルロを諌めるが、リリアス自身がそれを制す。


「良いのです。言う通り、私は和平問題を先延ばしにするためにプラニアスに向かっているのですから。」


「…………」


本人にそう言われてしまうと、ブレンダは黙り込むしかなかった。


彼女の口から話されたことは、進展のない戦況打破の名目で持ち上がった政略結婚の案を受け、反対した皇王がその話が本格的になる前に娘を逃がしてしまおうとして計画したもの、ということだった。


話し終えてからもイグナスは沈黙を続け、カルロはさめた視線をリリアスに投げ、ブレンダは居心地が悪そうにしている。


全員が旅の目的にあまり納得出来ていない様子で、それを敏感に感じ取った彼女は眉を下げて頭を垂れた。


「……今まで騙していたことは、本当に申し訳なく思っています。旅を続けることだって皇女として褒められるものではないけれど、それでも、賢者の国と呼ばれるプラニアスに行ってみたいことは確かなのです。だから、どうか……この旅路に、皆様の力を貸して下さい。」


彼女の丁寧な礼に、しかし、躊躇いなく首を縦に振る者はいない。


「……リリアス、そろそろ……」


と、側にいたオリビアが突然口を開く。


彼女はぴくりと反応を示し、オリビアに向かって小さく頷いた。


皆が見守るなかで、彼女はゆっくりと踵を返して部屋の扉の方へと向かい、足を踏み出す。


「……後は任せるわ」


部屋を出る直前、彼女がそう囁いたのが聞こえた。


扉が、静かに閉まった。