「……それが確かに本物だって証拠は?」
しばらく黙って考えていたカルロが口を開く。その目は厳しいものだった。
それに答えたのは、しかし、リリアスではなかった。
「いや、あの紋章の鋳型は皇室しか持ってない。あの複雑な模様を再現するのは無理だ」
その場にいた全員の視線が、その言葉を発した人物──イグナスに向かった。
「……へえ」
少々面食らったというようにカルロが言う。それもそうだ──まさかイグナスがそんな口を挟むなどとは誰も思っていたのだから。
「……その通りです。この紋章は再現不可能。知っている人が見れば、すぐに偽物か本物かどうかなんて区別はつきます」
一拍おいて、はっとしたようにリリアスが説明を続ける。
「これが偽物だとして、そんなものを身につけて皇家と交流の深いベリリーヴ家に行くとお思いですか?」
彼女の問いに、答えられるものはいない。
今の話に嘘がないことは、もはや明白だった。
「……ふうん。わかった。じゃあ信じるよ。」
カルロの言葉に、リリアスはほっとした表情をこぼす。
「……でも、」
しかしそんな彼女に、まだ終わってないと言うように、カルロの言葉は続いた。
「何で、田舎令嬢だなんて嘘ついたわけ?留学旅行っていうのもどこまで本当?あんたの目的は何?」
たたみかけるようなカルロからの問いに、リリアスは一瞬息を整えて、静かに口を開いた。
「……わかりました。お話ししますわ。」
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