「……はい?」
一瞬の沈黙の後、初めて発されたのは反対側の隅にいたブレンダの間の抜けた返事だった。
イルシオン皇国第二皇女、と彼女は言った。
それは、つまり……今目の前にいるのは、"イルシオン皇室の宝"と称される、最高権威者なわけで。
(……第二皇女、ね)
一瞬の衝撃が落ち着くと、それほど驚くべきことではないとイグナスは思っていた。
見送りに皇王みずからが立ち会っていたことや、田舎令嬢が狙われる不自然さも、彼女が第二皇女だと言うならば納得がいく。
先ほどの敵はやたら『革命』と言っていたが、確かに第二皇女を人質にとり脅迫することは有効な手立てに思われる。
……それに、何より。
目の前で微笑む彼女が纏う空気感そのものから、ピリピリとした威圧感や気品が伝わってきて、何よりもの証拠になる。
「第二皇女……ですか?ご冗談を……」
カルロとブレンダは信じられていない様子で、"リリアス"に向かってそんな言葉を返している。
彼女は、少し焦らすかのような間を置いて口を開いた。
「……本当なのです。証拠もありますわ──こちらを。」
そう言って首もとに手をやり、外されたのは碧色の大きな石のついたネックレス。
それをブレンダに手渡しながら、彼女は説明する。
「……裏を見てほしいのです。そこに刻まれた紋様を。」
彼女に言われるまま、向きを返して裏を見たブレンダは、思わずあっと声をあげた。
見えたものは、聖帝を表す横十字とイルシオンの国花であるユリの花が絡み合った独特のエンブレム。
平民でも一度は見たことのある、イルシオン皇室を表す模様で。
それを確認してから隣のカルロに渡すと、彼もまた目を細めてそれを見、隣のイグナスへと回した。
「それは、皇家の女性に代々伝わるものです。私の母──現皇后が、婚約式でつけていたものでもありますわ。」
紋章を一瞥したイグナスから返されたネックレスを受け取りながら、彼女は静かな声で説明する。


