アルディスは、まだ寝台の上で小刻みに震えていた。


瞳は見開かれ、唇は青ざめ、両手は身を守るように胸の上でしっかりと組まれて、これも震えている。


「……アルディス」


寝台の所まで歩み寄ったイグナスは、彼女を覗き込んで声をかける。


返答はない。というか、言葉が届いていないかのように反応はなかった。


ただでさえ人形のような整った容姿が、こんな風に生気を失ったようにしていると、まるでここにいるのは本当に人形で、アルディスという少女なんていないのではという錯覚に陥りそうになる。


「おい、しっかりしろ」


先程より語調を強めて、どこか遠くを彷徨っている双眸を覗き込んで呼び掛けるが、やはり反応はない。


「アルディス、おい、大丈夫か」


肩を遠慮がちに揺らして何度か言葉をかけていると、やがてゆっくりと目に力が戻り、所在なげに揺れていた視線がイグナスのそれに焦点を結んだ。


「……イ……イグ──ナ、ス?」


ひどく掠れた声でぽつり、アルディスが口を開いた。


ようやく帰ってきた反応に何となくほっとしながら、イグナスは頷いた。


「ああ、俺だ……って、おい、アルディス?」


思わず素っ頓狂な声をあげてしまったのは、アルディスが目の前にあったイグナスの騎士服にしがみつくようにしてきたからで、そうすると彼の身体は寝台に横たわったままのアルディスの方にこころもち倒れ込む形になるからだ。


なんとか倒れないように、アルディスの身体の横に片手をついて自分の身体を支えるが、なんとなくこの体勢はまずいのではと彼は内心で慌てる。


「……アルディス?大丈夫か?」


遠慮がちに声をかけるが、アルディスのすがりつくような震える指先に気付いて、無理に体勢を起こそうとは思わなかった。


「……あ、ごめんなさい……」


一瞬の間の後、はっと自分の行動に気がついたらしい彼女が手を離す。


とりあえず体勢を戻しながら、イグナスはまだ顔色の悪い彼女をじっと観察する。


まだ両の手の震えは収まってないらしく、胸の前でそれを押さえるかのごとく、ぎゅっと握り込んでいる姿が痛々しい。