一瞬男がイグナスから目を離した瞬間を見極め、彼はすぐに大きく間合いを詰める。


そのまま間髪おかず左手を出し、ナイフを持った男の右手を捻り上げた。


「いっ……!」


男の唸り声とともにカラン、という音が響いてナイフが床に落ちる。


イグナスはそれを遠くに蹴り飛ばすと、もう一方の手で男の肩の付け根を押さえて身動きのとれぬよう関節を固めた。


「おっ、お前……何なんだ!?」


腕を使えない状況で、男は首だけを後ろに捻ってイグナスを睨んでくる。


「それはこっちの台詞だ。俺は……あいつの護衛だよ」


吐き捨てるように言いながら、彼はさらに男を壁に押し付ける。


「護衛だ……?畜生、あと少しのところだったのに……!」


なおも歯軋りをして、男は一方的に話し出し始める。


「目前だったのに……!余計な邪魔さえ入らなければ、必ず成功していたものを……!彼女さえ手に入れば、革命は成せるものであったのに……!」


(……革命、か)


先程も聞いた言葉に、イグナスはほんの少し考えを巡らせた。


──が。


(……こいつらの目的なんて知ったこっちゃねえ)


彼自信は彼らの語る革命だとかそんなものには微塵も興味がなかったので、目の前で聞かれてもいないことをペラペラと喋っているこの男が急にどうでも良くなった。


「……耳障りだ。黙れ」


吐き捨てるようなその言葉とともに、イグナスの左手側面が男の首筋に振り下ろされた。


意識がなくなった身体を無造作に床に放り、彼はそのまだ若く見える顔を見下ろす。


(こんな野郎に振り回されてたのかよ……)


気を失う前までの恐怖の焼き付いた表情を見ながら、なんとも言えない脱力感に襲われて彼は大きな溜め息をついた。


……何はともあれ、親玉らしきものは倒したのだ。


あとはこいつを連れ帰るだけ、と、イグナスはアルディスに向かって振り向き、そちらに進んだ。