ガァァンッ!


大きな扉に肩から当て身を喰らわせて、こじ開けて入った部屋の中。


まず目に入ったのは、驚いた顔でこちらを見ている、覚えのない良い身なりをした若い男と……そのすぐそばで、桜色の髪を寝台に散らしながら、小刻みに震えている少女。


(……アルディス?)


その姿に、違和感を覚えた。


呼吸は途切れ途切れ、頬には涙の跡……どう見ても、様子がおかしい。


「……そいつに、何をした」


喉の奥から、低い声で男に問う。


それと同時に、一歩、そちらに向かって踏み出す。


が。


「……く、く、来るな!何もしていない!何もしていないんだ!」


睨み付けるイグナスを前に、男は突然せきをきったように喚き散らし始めた。


恐怖からか唇は青ざめ、目を見開いてこちらを凝視してくる。


「ふざけるな。何もしていないのにこいつがそんな風になるわけないだろう」


混乱した相手は厄介だと、内心舌打ちをしながらイグナスは言った。


手にしている長剣より鋭い彼の視線に射抜かれ、男はたじろいだ風に視線をそらす。


「何をしたんだと聞いている」


なおも言葉を続けながら、もう一歩。


せわしなく視線を彷徨わせていた男は、急に思い詰めたように先ほど握りしめていたナイフを振り上げた。


「こ、これ以上近付いたら、この女の命はないぞ!」


アルディスの首の真っ直ぐ上にナイフを構えて、どこか狂ったように男はイグナスに向かって叫ぶ。


「……その剣を置け!でないとこれを下ろす!首をかっ切るぞ!」


その言葉に、さすがのイグナスも足が止まった。


「早くしろ!」


男に急かされてから一瞬の後、舌打ちが聞こえてきそうな顔でイグナスは右手にあった長剣を床に置いた。


「……よし、それで良いんだ」


男がほっとしたように言った、その次の瞬間……。


(……今だ!)