あなたが教えてくれた世界




彼はすぐ、頭の中に先ほど覚えた屋敷の見取り図を浮かべる。


声が聞こえた方向などを考慮して、おそらく彼女がいるのは最奥の部屋だろう。


ならば、待ち伏せは承知で正面から向かうのみ。


(……あそこに、いる)


柱の陰から、イグナスは殺気のようなものを感じていた。


押さえ込んではいるが、あの緊張感……間違いない。


「……ここを通せ」


足を止め、睨み付けるような目付きでそう要求する。


少しの沈黙の後、左右の柱の影から、人影が応えるように姿を表した。


影は四つ。纏う雰囲気から、門の衛兵とは圧倒的に戦力差があることを感じる。


恐らく、主犯の一番近くに配置されている手練れの戦士と見て間違いないだろう。


……つまり、確実にこの奥にアルディスがいる。


「ならん」


リーダーらしき男が、低く言葉を発した。


鋭い眼光は、それだけで威圧させるほど。


「……あいつを、返せと言っている」


一方イグナスも引かず、もう一度要求を発する。


無言の睨み合い。


「……断る」


しかし向こうも引かない。力ずくで通るしかない、ということだとイグナスは判断した。


その前に。


「……あいつを、どうするつもりだ?」


もう一度口を開いて、出てきたのは小さな疑問。


てっきり金品目的の山賊の類かと思っていたが、どうやらアルディスを計画的に狙っていた様子。田舎の貴族だという彼女のどこに、それほどまでに狙われる理由があるのか。


しかし、男の口からこぼれた答えは、イグナスの思いもしないものだった。


「……革命の生け贄に」