カルロと別れて数分。廊下を駆けていたイグナスとハリスは、行き止まりとともに上の階へと続く階段に辿り着いた。
「……一階にはいないようだし、上に行くよ」
これまで走ってきた道を振り返りながら、ハリスが言う。
「わかりました」
そう答えつつ、イグナスの視線ももと来た方向へ向く。
「あいつら、大丈夫か……」
ぼそりと漏れた小さな呟きに、耳ざとくハリスは頷いた。
「大丈夫だよ。二人ならきっとね。敵が追ってくる様子もないし……」
それを聞いたイグナスは、気持ちを切り換えるように前に向き直った。
「……行きましょう。はやく」
今までと少し違う声の響きに、ハリスも前を向く。
「わかった。それと、この屋敷は三階建てだったから、ここからは二手に別れよう。二階が僕、三階がイグナス。それで良いね?」
イグナスはそれに頷いて、足を階段に向けた。
「わかりました」
二階でハリスと別れたあと、三階に降り立ったイグナスは、闇雲に廊下を駆け出すことはせず、まず静かに目を閉じた。
一見、誰の気配もいない無人の廊下。
しかし、視界を閉ざすことで、小さなピリピリとした緊張感を放つ存在や、殺気すらもわずかだが感じ取ることは出来る。
──待ち伏せをしている敵が、いる。


