「やあ、ブレンダ」
背後の彼女に向かい軽い言葉を投げかけながら、しかし攻撃の手は休まない。
「ようやく敵も少なくなってきたな……」
カルロの言葉に、同じく攻撃を繰り出し続けながらブレンダが頷いた。
「しかし、こちらも剣や体力が消耗してきている。出来れば早めにかたをつけてしまいたいな」
ブレンダの言葉に、カルロは自分の剣と糸をかえりみた。確かに血と脂がこびりつき、当初に比べて切れ味も悪くなっているだろう。恐らくこの戦闘が終わったらもう使うことは出来ないのだろうし。
彼は糸を振るい、血をいくらか落としたのち、しっかりと構えて背後に囁いた。
「……一気に仕掛けよう、ブレンダ。背中は任せたからね」
ブレンダも、刃こぼれが激しい方の剣をナイフ投げの要領で敵に飛ばし、足元に倒れていた敵の剣を奪って構えた。
「……ああ、任せろ。これでかたをつけるぞ」
カルロは頷き、そして大きな声で言った。
「行くぞ!!」
それを合図にして、二人が一斉に飛び出す。
今までにない勢いに、敵も若干驚きつつ、同じようにいきりたって襲いかかってくる。
──残っているのは、さすがに手練ればかり。
そうわかっていつつも、不思議とブレンダの心に焦燥はなかった。
(──仲間が、いる)
不思議な感覚。とても心強くて、どこか暖かい。勇気が湧いてくるような気さえしてくる。
そして──……。
「……やったね、ブレンダ」
立っている者は二人しかいなくなった廊下に、精根尽き果てたようなカルロの声が響いた。
激しい戦いののち、最後まで立っていたのはカルロとブレンダの二人。
何人もの衛兵が、気を失ったりして廊下に倒れている。
奥への敵の侵入は、二人によって防がれた。
二人とも息をきらし、よく見ると身体中に知らないうちに小さな傷を沢山こしらえている。
「……やったな」
ブレンダが、どこか晴れ晴れとした表情で言った。
「私一人では無理だっただろう。今回は感謝する」
その言葉に、カルロは微妙な表情を返す。
「今回はって……なんか言い方引っ掛かるなぁ……」
そのぼやきは聞き流しながらも、ふと気になって彼女はカルロの横顔を覗いた。
思い出すのは、先ほど一瞬だけ見えた気がした冷たい横顔。
少しだけ考えて、結論を出す。
(……きっと、気のせいだ)
どこにもあの面影は見当たらないし、それに、カルロは一緒に戦った仲間だから。
疑うのは良くない……と、彼女は自分を納得させた。
「……今から追いかけても足手まといになるだけだし、ここで待ってような」
頭を切り替えたところに飛んできたカルロの言葉に、彼女も頷いて屋敷の奥へと視線を送った。
(……アルディス様を、頼んだぞ……)
二人に出来ることは、あとは待つことのみ。


