あなたが教えてくれた世界




――踊っているみたいだ。


一人の衛兵が、彼女を見てそんな言葉を思い付いた。


同時に飛んでくる幾つもの攻撃を、長い髪をたなびかせながらその場で回るかのごとく身を捻ることでかわし、そのまま繊細な動きで両の剣を操り、敵の剣や手元を着実に弾いていく。


時には足さえも繰り出し、誰も、指先すら彼女に触れることは出来ない。


何よりもその、凛とした動じない視線に目を奪われる。


美しいという言葉がこれ以上似合うものはないという戦い方に、感嘆の溜め息すら漏れそうになる。



一方でカルロも、糸と剣を効果的に使い分けながら、何人もの敵を相手に奮戦していた。


ブレンダの攻撃を掻い潜ってこちらに来ている者はやはりそれなりの手練れが多いようで、正面からの攻撃は見切られる。


今は手袋の上から右手に糸を巻き付け、その手に刀も握る。必要に応じて糸も繰り出すという戦い方をしていた。


刀を出すと見せかけて糸を出す。前への攻撃と見せかけて背後に糸を繰り出す。そんな騙し討ちの繰り返し。


後ろの敵が何人か倒れた瞬間、一瞬だけ、戦うブレンダの姿が見えた。


(……やっぱり、かなり、上手い)


カルロはその姿を見て、冷静に分析をする。


今は攻撃をかわしているらしく、一歩ずつ彼女が後ろに……こちらに向かって後退をしている。


(……これは、一回固まった方が良いかな)


また一人を片付けながら、カルロはそう判断する。どうしても背後が薄いぶん、攻撃に集中しきれない。もう人数も最初の半分ほどになっているのだし、固まってそこを拠点に戦った方が良いだろう。


そう判断すると、カルロは攻撃と小さな斬撃をかわすことを繰り返しながら、一歩一歩、彼女の方向に向かって足を踏み出していった。


そして……。


――トサッ


軽い音をたてて、二人の背中が重なった。