カルロは一瞬ブレンダを見て、それから口を開いた。
「……鋼と鉄を仕込んだ糸。ぴんと張ったら肉も切るよ。ウラルダスで昔使われてた暗殺器の一種」
彼女はまじまじと、カルロの横顔とその手の糸を見つめる。
「……そうなのか。見たことがない」
カルロはふ、と笑うように息を吐いた。
「……だよね。普通はこんなの使わないもん。攻撃範囲が広くて一気にやれるから、対大人数の待ち伏せとかには最適なんだけどね」
なるほど、と彼女は漏らす。確かに遠くから攻撃出来るのは、待ち伏せをする上でありがたい属性である。
と、そんなブレンダに、カルロが突然調子を変えて抑えたような低い声で問いかけてきた。
「……君は、剣以外の暗殺器なんてものを使うことを、騎士道から外れた卑怯な行為だと言う?」
彼女は、突然そんなことを言われたことに驚いた。
確かに騎士とは剣を使った正々堂々とした戦いをすることこそが本質だと言われており、それが民にも根付いている。そういう観点から見ると、カルロは騎士道精神から大きく外れていることになるのだろう。
そこまでは理解した。だが……。
「……思わん」
しばらく間をおいて、彼女が重々しく口を開くと、カルロは驚いたように彼女を見た。
「騎士道など何の意味がある。古い考えに囚われて、価値のあるものを使わないのはただの阿呆だ」
淡々と自分の考えを述べるブレンダに、カルロの意外そうな視線が飛んでくる。
「最近は鉄砲や大砲などの飛び道具も出てきているしな。……それに、女の私が騎士道など語ったところで、茶番にしかならん。だろう?胸を張れ。その道具を生かせ」
最後の言葉を、カルロに顔を向けて言うと、彼の目は一瞬大きく見開かれ、それから微笑みがこぼれた。
「女だからって十分騎士だと思うけどね……。でも、ありがとう。ブレンダとは考えが合いそうな気がしてきたよ」
その笑顔と、告げられた礼を照れ臭く感じ、ブレンダは視線をそらし固い声で言う。
「気安く名で呼ぶなと言っているはずだが。……それとこの手をどかせ。気に入らん」
いつの間にか肩を抱くように回っていた手を弾きながら、ブレンダが言うと、彼は楽しそうに笑った。
「はいはい分かったってばー。それよりブレンダもう敵来るよ!」
「貴様全然わかっていないよな……?」
名を呼ぶなと言った矢先にブレンダと呼んでくるカルロに呆れながら、ブレンダもまた迫る敵を見据え、隣のカルロと同じく武器を構えたのであった。


