「……ブレンダー」
背後からの間延びした名を呼ぶ声に、彼女は思わず、げ、と声を漏らした。
いやいやながら振り返ると、そこにいるのはカルロ・ル・クロース。
「……何で来たんだ、先に行ってくれと言っただろう……」
思わず眉をひそめたブレンダの隣まで来ると、カルロは廊下の遠くに姿の見せた敵を見据え、しれっとした態度で答える。
「だってさー、あの人数ブレンダ一人じゃきついでしょ?」
含みを込もった響きに、彼女の顔が上がる。
「……気がついて、いたのか」
まじまじとカルロの横顔を見つめるブレンダに、彼は言葉を休めない。
「もちろん。門にいた時はあんなに沢山武器持ってなかったし、なんか統制ついてなかったじゃん。それが一人に一つ立派な武器持って、こんなに早くこっちに追い付いたってことは、外部からの武器の供給と、新しい統率者……つまり増援が来たって考えられるよね?この奥にいるアルディスさん拐った犯人が呼んだとかだろ?」
淡々と、数刻前の思考を辿られてブレンダは驚く。
彼女も、今カルロが述べた通りの推理をして、全員で相手をしている時間はないと判断し、一人で足止めを買って出る判断をしたのだ。
「多分隊長とイグナスも何となく気付いてんじゃないかな?ブレンダを信じて敢えて任せたって感じしたけど。俺が行くって言ったとき特に止められなかったしさ」
「……そうか」
カルロの言葉に、ブレンダは静かに言葉を返す。
「一人でなんて無理しないでさ。殺されはしないだろうけど痛い目みるよ?俺の方が迎え討ちに向いてる武器も持ってんだしさ」
そう言いながら、おもむろにカルロは懐から太い鈍色のロープのようなものを出す。
「……何だ?それは」
見慣れないものに、ブレンダはまじまじと彼の手にあるそれを見つめた。


