後に続く二人も、迷わずハリスの背を追っていた……のだが。
「……すいません、俺、やっぱブレンダと残ります」
角を一つ過ぎたところで、突然カルロが立ち止まり、きっぱりとそんなことを言い出した。
「……え?」
ハリスもイグナスも、一斉に怪訝な視線を送る。
一瞬険しい表情で迫る背後の敵を見やったカルロは、しかしすぐに表情を薄っぺらいいつものそれに戻し、言う。
「なーんか、悪い予感するんすよね。敵の援軍でも来てるような気がして……。それにやっぱ俺紳士だし、女の子一人残せないっていうか?」
ぺらぺらと一方的に言葉を並べたのち、カルロは二人に片手をあげた。
「……そーゆーことで、あとはお二人にまかせまっす!んじゃ!」
そして、隊長であるハリスの返事も待たず、くるりと後ろを振り返って敵を待ち構えているブレンダのもとへ駆けていく。
「……おいカルロ、てめえ勝手な行動は……」
その背中にイグナスが声をとばすが、カルロは止まらない。
ハリスはじっとその後ろ姿を見たあと、大したことのないような笑みをもらした。
「……良いよ。あいつを信じよう。あんな事を言ってるけど、きっと考えがあるんだろう」
そう言いながら、再び前を向く。
ちょっと意外に感じながら、イグナスもそれに倣ってカルロから視線をそらした。
「……あいつはできるよ。よく見ているし気がつく。勘も良い。」
確信をもった口調で、ハリスは言った。
彼は思い出す。今までの鋭い質問や、意外とカルロが状況を見ているということを。
「……そうっすね。知ってます。学校でもそうでしたから」
もう諦めたという風に、イグナスも言った。
「勝手な行動は本来はまずいんだけど……信頼してみよう。クロース……カルロを。」
イグナスは、今まで騎士たちを名字でしか呼んでこなかったハリスが初めてカルロを名前で呼んだことに気がついた。
それから、いつもの茶色い相棒の顔を思い出して言った。
「……尻拭いはいっつも俺なんすよね……まあ慣れたんですけど……」
二人の、ため息にも似た笑みが重なった。


