それゆえ、全ての攻撃の道筋を見切り、軽い身のこなしによってかわすことが可能、と噂されていたのだ。
さらに大きく出回っていたのが、"剣を使わない"という話だった。
剣を使った対戦式の授業でも、構えるのみで振るうことはせず、ほぼ全てを素手で倒してきたというのだ。
ハリスは大袈裟だと信じていなかったのだが、あの様子だとどうやら本当のことらしい。
噂によると、彼が学校で剣を使ったのはたったの三度……らしい。
一度はチームどうしの対戦で狙い打ちにされ、二十人もの上級生をたった一人で相手にしたとき。二度目は剣術師範との模擬実習のとき。そして三度目はここにいるカルロとの真剣を使った勝負のときだと言われていた。……そして、いずれも負けたことがないというのが驚きである。
その実力から、実力が揺らがないという意味と、剣を使わないという意味がかけられて"不抜のコヴァート"という通り名がついたらしい。
正直学生だとたかを括っていたのだが……この様子ならかなり期待できる。イグナスも、そして同率の成績だというカルロも。
ふと横を見ると、ブレンダが驚愕の表情でイグナスを見つめていた。恐らくブリーズンには、彼ほどの腕利きはいなかったのだろう。
「……こいつら、どうしますか」
運び終えたイグナスが、指示を仰ぐようにこちらを見てきた。
ハリスは頷いて口を開く。
「そうだね、時間がないし、当分は伸びてるだろうしこのままで良いと思うけど……念のため、武器を奪っておこう」
そして大股で近寄り、二人の腰から剣を奪い取った。
「一本は俺が持っていくけど、誰かもう一本持っていく?」
腰にそれを差しながら聞くと、名乗りをあげたのはブレンダだった。
「なら、私が。武器はいくつか持ち歩く主義なので」


