「……そうです。アルディス様を泊めることを快く承諾したのは、ベリリーヴ侯爵様ではありません。エリウス殿です」
オリビアは俯き、何かを覚悟したかのように続けた。
「……そしてエリウスは、アルディスの味方ではない、のでしょう……?」
彼女の悲痛そうな声を聞きながら、アンは彼らの会話の続きを思い出す。
『エリウスはしっかりやってくれているだろうか』
『あいつなら大丈夫だ。優秀な我々の仲間だぞ』
『はは、それなら安心だ』
聞こえてきた会話はそこまでで、アンも追いかけることは出来なかったのだが、それだけで重要な情報は沢山頭に入ってきていた。
そして、いてもたってもいられず、厩舎に駆け出したのである。
アンは思い返してから、噛み締めるようにゆっくりと頷いた。
「……そうです。少なくとも、シドニゥス公爵の方では、エリウスを仲間だと思っているようでした」
彼女がそう言うと、オリビアの表情はさらに深刻さを増し、あたりには悲壮感が広がった。
「……ちょっと良いかな?それじゃ、アルディス様は今敵のもとにいる、ということだよね?」
と、それまで黙って彼女達の話を聞いていた、青みがかった灰色の髪をした背の高い騎士が質問してくる。
「……ええ、おそらくはそういうことだと思います」
彼女が頷くと、彼は今度はオリビアの方を向く。
「そういうことだから、何かが起こる前に急いでアルディス様を奪取する方向でいく。良いかな?オリビア」


