まくしたてるオリビアを前に、アンは冷静な目を向けて、言う。
「落ち着いてくださいオリビアさん。……彼らが言っていたのだと、今屋敷にいて、侯爵を追い出したのは、息子のエリウス殿だそうです」
「息子の……エリウス?」
意識したこともなかった名前が出てきて、オリビアは戸惑いながらその言葉を繰り返す。
(エリウス……聞いたことがあるような、ないような……)
どこか引っ掛かるような気がしなくもなかったが、すぐには思い出せなかったので引き続きアンの話を聞く。
「侯爵はもう一年以上前から、屋敷の外に出られないほど体調が悪く、領地を治めたりという実質的な仕事はエリウス殿がしていたようです。そして、シドニゥス公爵がおっしゃっていたのは……」
アンは言葉を切って、聞こえてきた会話を思い出す。
『ベリリーヴ侯爵が手の出せない場所に厄介払い出来て良かった』
『彼は今どこにいるのです?』
『半年前からシキュアンの山奥の療養所にいる。あそこは自然も豊かだ。ゆっくりと体調を整えてくれればいい』
公爵の嫌みったらしい口調を思い出しながら、アンは説明する。
「……半年、前から、シキュアンの山奥にある療養所に送られて、おそらくは実質軟禁状態でしょう」
「半年前って言ったら……」
オリビアがはっとしたように言った。
皇王とレオドルの間でアルディスの留学話が出たのが、戦火が逼迫してきた二月ほど前からだ。
もちろん、彼女の宿泊先を手配したのもそれからなので……つまり、アルディスを泊めてくれるように皇王に頼まれ、その依頼をベリリーヴ侯爵の名で受けたのは、侯爵自身ではなく息子のエリウスなのだ。


