ただならぬ様子のアンに押され、オリビアは不安げに、しかしはっきりと言った。
「そうよ。予定通りに、アルディスは侯爵邸でお世話になっている。でも、侯爵様の体調が優れないらしくて、私たちは屋敷に入ることを拒まれてしまったの」
その説明を聞くと、アンの顔に信じられないという表情が浮かんだ。
「……それって……!!どう考えてもおかしいですよね!?そんなの、マナー違反です……!」
彼女の言葉と同じものを痛いほど感じていながらも、何も言い返せなかったオリビアは悔しげに肩を落とした。
一方、憤っていたアンは、ゆっくりと息を吐き、深刻な表情で告げる。
「……実は、私がここに馬を飛ばしてきたのは、お伝えしなければならないことがあったからなんです……。ベリリーヴ侯爵のことで、シドニゥス公爵が話していることを、偶然聞いてしまって」
皇王と敵対しているシドニゥス公爵の名前を聞いて、オリビアの表情がよりいっそう固くなった。
つかみかかりそうな勢いで、アンに聞き返す。
「シドニゥス公爵が、ベリリーヴ侯爵様の事を……!?一体、どんな話をしていたの!?」
アンは、冷静な様子でゆっくりと告げた。
「公爵は……、ベリリーヴ侯爵は、侯爵邸にはいらっしゃらないはずだとおっしゃっておりました」
オリビアは、最初その言葉の意味を理解出来なかった。
「……え?」
一瞬の間ののち、そんな声をあげることで、ようやく本来の思考を取り戻す。
「そんな、おかしいわ。だって使用人だっていたし、管理も行き届いているようだったわ?侯爵がいないのなら、屋敷には一体誰がいると言うの?」


