「……馬かな」


カルロの呟きが終わるか終わらないかの瞬間で、彼らの間にピリリとした緊張感が走った。


「誰だ……?何故こんなところに来る……?」


ハリスが自問するように言う。その間も、規則的な足音は止むことはない。


「すごく丁寧な走り方……これ、騎手は中々の腕前だね」


じっと音を聞いていたカルロも感心したように言った、その時。


「──あっ、オリビアさん!!」


突然高い声が響き、何者かが颯爽と馬に乗って彼らのいる空間に飛び込んでくる。


「……女の子?」


カルロの呟きと、同じことをちょうどイグナスも思った。


馬上の人物は……赤みがかった茶髪を後頭部で一つのお団子に纏めている、軽装をした十四、五歳の少女だった。


「……アン……?」


オリビアが、自信がなさそうにぽつりと呟くと、どうやら名前はアンと言うらしい少女の顔がぱっと輝いた。


「オリビアさん!!良かった追いついた……!!アルディス姫様は!?」


騎士らの戸惑いをあらわにした空気を一向に気にすることなく、二人は一気に自分たちの世界をつくりあげていく。


「アン、どうしたの?あなたはお妃さまの付き人になるのでしょう?……アルディスは、侯爵の屋敷に泊まっているわよ」


そう言うと、さっと、アンの顔から血の気がひいていく。


「侯爵の屋敷……、姫様は、ベリリーヴ侯爵の屋敷に、いらっしゃるのですか!?」