(……誰?誰なの?一体……)
まとまらない思考がぐるぐると頭を駆け巡り、彼女は奥歯を噛み締めた。
(……だめ、だめよ、パニックを起こしてはだめ)
不意にそう思い直し、自分に言い聞かせることで何とか平静を取り戻そうとする。
息を吐き出し、肩に入っていた力も抜いたところで、部屋の扉が開く音がした。
「お目覚めですかい?イルシオン皇国第二皇女、リリアス・デ・イルシオン殿」
カツ、カツと音をたてるよう入ってきたその人影を見て、リリアスの目が見開かれる。
「あなたは……!」
* * *
「──何の音だ?」
オリビアが食事の準備をしている間、適当な場所に座っていたイグナスらの中で、遠くから聞こえてきたその音に一番最初に反応したのはカルロだった。
もう日もくれようとしている時間、屋敷からの明かりが辺りに浮かび上がっている。
「何か聞こえたか?」
何も聞こえなかったイグナスはそう問い返す。その向こうにいたハリスも聞こえなかった様で首を傾げている。
「え?聞こえない?何かの足音みたいな……」
その言葉が言い終わる頃に、その音はしっかりとイグナスとハリスの耳にも届いた。
落ち葉を踏みしめる、軽やかで規則的な足音……。