あなたが教えてくれた世界




「ふーん……」


カルロはイグナスを見て、口の中で言葉を転がしている。


「意外……イグナスってそういうタイプだったんだ」


その、興味深そうに何かを考えているカルロから目を反らし、続ける。


「……進んで悪事をするとは言ってない……任務については必要最低限知っていれば、あとは深く干渉するのが煩わしいだけだ」


そうこうしているうちに馬の世話が終わり、イグナスは道具をまとめて手に持つ。


「任務から手を抜いてるんじゃない。そこは誤解するな。……あいつはアルディスだろ、それだけで十分だ」


そう言って離れようとしたその背を引き留めるかのように、カルロの言葉が追ってきた。


「誤解はしてないよ。イグナスは任務に関しては真面目だもんね……それより、名前、覚えたんだ。珍しい。いつそんな親しげに呼び合うようになったの?」


自然、イグナスの足が止まる。


「女の名前はおろか、俺の名前だって覚えるのに一ヶ月くらいかかったのに。へぇ……アルディスちゃんは覚えたんだ」


「……直接名乗られたからな」


カルロには聞こえないように答えた。


刹那、耳元である声が蘇る。




『私、お前じゃない。アルディス』




まっすぐ目を見て言ってきた、昨晩の彼女の様子がすぐに目に浮かぶ。