「ああ?」
思ってもみない事を言われて、思わず声が尖った。
……が、一瞬ののち、大袈裟な反応をしてしまったことに居心地の悪さが感じられてきて、イグナスは視線を泳がせる。
「……気にしてなんかねぇよ……大体、俺が何を気にするんだよ……」
溜め息をどうにかしてこらえながらそう言うと、カルロは意外そうな顔をする。
「……そうなの?俺は気になるけどなー……」
「お前はそうだろうな……」
今度こそ溜め息をついてしまいながら、イグナスは素直な感想を述べた。
「……あの二人ってさ、何者なんだろうね」
が、帰ってきたのはいつもとトーンが違うカルロの声。
「……どの二人だ?」
「アルディスちゃんとオリビアさん」
イグナスが聞き返すと、軽い調子で答えてくる……が、やはり目が、いつもより冷めている。
「……あの二人が?どうした?」
「聞いた?アルディスちゃんさ、あの侯爵の家の奴に、リリアス様って呼ばれてたよ」
「……リリアス?」
カルロの言っている事がわからず、イグナスは戸惑う。
「あのオリビアさんも、自分はリリアスなんたらの侍女だって自己紹介してたし」
「……どういうことだ?」
カルロが言っているのはきっと、門の前でやりとりしていたときのことだろう。
御者席にいたハリスならともかく馬車の後方にいたイグナス達からは、向こうの会話は全く聞こえなかった。それを、カルロは聞こえたと言うのだろうか。


