その思いは皆同じようで、時折ちらちらと屋敷の方に緊張感を漂わせた視線を向けている。


一番顕著なのはオリビアで、せかせかと動きながら、どこか焦ったような表情を張り付け、下唇を噛み締めている。


馬に水を飲ませながら、イグナスも一度、屋敷を見つめた。


屋敷に入る前の一瞬だけ見えた、彼女の後ろ姿。


(何だったんだ……?)


旅に出てからずっと見ていた、怯えたような、今にも消えていきそうなあの雰囲気とも、イグナスに対して一瞬だけ見せた、どこか意思の強そうな凛としたそれとも違っていて……。


なんと言うか、気品に溢れた──まさに、貴族の令嬢というのにぴったりの、堂々とした空気が漂っていた。


それまでとは別人の様なその振る舞いに、なぜか不安が掻き立てられた。


──いや、令嬢としては、むしろそちらの方が正しい姿なのかもしれないが。


あのアルディスという少女と二日見た後だと、何故か、あの姿を見て胸がざわめいた。


そこまで考えて、イグナスはふと気付く。




──そうだ、あの言いようのない不安感、それはきっと。


そんな彼女から、何か違和感のようなものを感じたからだ──




「……イグナス」


不意に届いた声に、彼の思考は中断された。


知らず知らずで止まっていた手を再開しながら振り向くと、見慣れた茶色い頭が目に入った。


「……なんだよ」