(紅茶はおそらく最高級のもの。きっと、このお菓子も。応接室も上客用のものだし、私を迎え入れている事は確か)


そう──表面上は、何も不審な点はない。


しかし、いくら理由があるとは言え、侍女や騎士を屋敷に入れなかったり、使用人ばかりで家の者が誰も現れなかったり……釈然としないような点があるのも確かで。


言い様のないもやもやした気分を抱えながら、リリアスはもう一口紅茶をすすった。


ちょうどその時、部屋の扉が開き、二人の侍女のうちの一人が現れた。


「──お部屋の支度が整いました。ご案内します」


「ありがとうございます」


彼女は持ったままだったカップをもとの位置に戻し、しずしずと立ち上がる。


先ほどの執事の男に軽く会釈をして、誘導するように三歩前を歩く侍女の背に続いて部屋を出た。


広い廊下に出て少し歩き、重厚な造りの階段を登って三階に辿り着く──最上階のようだ。


そこから更に廊下を歩き、二回ほど曲がり、まだかと内心不安になってきたところで、ようやく侍女の足が止まった。


「こちらです」


促されるまま部屋に入る。目に入るのは、天蓋付きの広い寝台に、大きめの文机、お茶などを飲むような小洒落たテーブルと椅子。


皇宮にあった自室に匹敵するほどの、一人で使うには広すぎる部屋だった。


運び込まれた衣装箱などの荷物もちゃんと部屋の隅に置いてあるし、掃除もきちんと行き届いている。


「ありがとうございます」