「……事情はわからんが……ともかく、こちらには影響がなかったんだ。大したことはないとしよう」
イグナス、カルロの腑に落ちないといった表情を見て、まとめるようにブレンダは言った。
「……そうだな」
彼女に相槌をしつつも──やはりどこか、引っ掛かる。
そう思いつつ、アルディスの待つ馬車の小さな窓を叩く。
やがて、桜色の双眸がカーテンから覗き、相手が敵じゃないとわかるとすぐさま窓を開けた。
「終わった。ただの通行人の喧嘩だ。気にするな」
そう言いつつ、ただの通行人の喧嘩と思えてない自分に溜め息をつきたくなる。
先ほどの人垣もすっかり崩れて、何もなかったかのようなその場所を彼は見た。
……そんな、彼らの耳に入ってきた会話。
「ああ、いやだ……エリウス様、またあんな風に騒ぎを起こして」
「本当よね。ここ最近しょっちゅうじゃない?戦争批判の弾圧であんな風な騒ぎが起こるの」
「正直、ここでやらないでほしいわよね……まあ、戦争批判する方も、人が多いところでやりたいのでしょうけど」
──それは、ここらへんに住んでいるのだと思われる、庶民的な身なりをした若い女性二人だった。
「今の、聞いたか?」
ブレンダが、小声で囁いてくる。
イグナスは頷いた。
「ああ。……何か事情がありそうだな」


