あなたが教えてくれた世界




そのことをしっかり確認してから、イグナスは注意深く、騒ぎのもとを観察した。


こちらを襲ってくるのならともかく、ただの喧嘩のようなら、ここで下手に目立つわけにはいかない。大人しくするのが賢明だろう。


その判断はさすがに、ブレンダやカルロも同じようで、二人とも行動を起こそうと言う気配はない。

少し目を凝らしていると、人垣の割れ目から、騒ぎの中心が垣間見えた。


──身なりの良さそうな服を着た若い男が、ある屋台の主人を怒鳴りつけている。


「こんなものを配って……一体どういうつもりだ!!」


男の方はかなり怒っていることが、周りを気にしない大声や、その表情から見てとれた。


「も、申し訳ありません」


主人の方は大層怯えた様子で、真っ青になりながらそんな言葉を並べる。


「今すぐ片付けろ。ここから出ていけ。次俺の前に現れたら……わかっているだろうな」


冷たく、男が言い放った。


主人がさらに青くなりながらその配っていたものを片付け始めるのを振り返ろうともせず、その男はとめてあった馬車に乗り込んだ。


やはり上質そうな馬車で、アルディスが乗っているものよりも一回り大きい。


「……出せ」


彼が乗り込むとすぐ、そんな声が聞こえ、馬車は動き始めた。


「……なんだったんだ?」


一連の動きを同じく見ていたカルロが呟く。


はっと気がついて見てみると、同じく騒ぎの中心だったさっきの主人は、既に荷物をまとめて姿を消した後だった。