……バタン。
仰々しい大きな音をたて、馬車の扉が閉まった。
アルディスは、オリビアを見送るためにそちらに送っていた視線を、隣の窓に移す。
外から中が見れないようにひかれたカーテンを少し開けて、外の様子をうかがう。
――そこには、見たことのない賑やかな世界が広がっていた。
行き交う人々。身なりは質素なれど、皆活気にあふれた表情をしている。
その、生き生きとした瞳たちから、目が離せなかった。
客引きをする店主、値引き交渉をする主婦、荷物をもつ少年。
それは、彼女が今までに見たことのないもので。
じっとそのまま外を見つめていると、それに気付いたブレンダが、その窓に近付いてきた。
アルディスの前に立ち、市民から見えないようにしてから、窓をそっと開けて囁いてくる。
「アルディス様、何かございました?」
別に執着すべき何かを見つけて外を見ていたわけではないので、アルディスは気まずくなりながら首を横に振った。
そんな彼女に、ブレンダは優しく質問する。
「市場は初めてですか?」
オリビア以外の人と、こんな風に話した経験があまりない彼女は、戸惑いつつこくりと頷く。
それを聞いたブレンダは、一つ頷いて言った。
「それなら、何か買ってきます。記念に、市場のものを食べてみましょう。少し喉が渇いていませんか?」


