「え……」
何とも言えない表情をするイグナス。
そんな様子を通じて、本能にも近い所でオリビアは判断した。
──アルディスの様子には、少なからずこの少年が関わっているに違いない。本人が気付いていないだけで──
「……本当に、何もした覚えがないんですね?」
「お……おう」
その答えを聞いて、オリビアはかつかつと彼に歩み寄り、普段より低い声で言った。
「……今のうちに忠告しておくけど、アルディスに何かして嫌われるだけじゃなく傷つけてごらんなさい。私が絶対許さないわ。自覚ないで済ますつもりもない」
すぐそばから伝わってくる殺気、もとい殺意に、イグナスの背中に不快な汗が浮かぶ。
騎士養成学校でそれなりの訓練を受けてきた自分を動揺させるほどの気を纏えるなんて……一体何者なんだ、オリビアは。
「はっ、はい。気をつけます」
気圧されたイグナスは、しっかりとした敬語で、背筋までピッと伸ばして返事をする。
丸い目に強い光をたたえ、まっすぐに睨んでくるのを見ながら、何となく先ほどのアルディスと重なる。
侍女は主に似るのだろうか……いや、彼女たちだと、主が侍女に似たようにも思えるなどと、呑気な事を頭の隅で考えるイグナスであった。
* * *
次の日。早朝。
昨日の森から少し進んだ所にある市場の片隅で、止まった馬車の中、オリビアがやけに真面目な形相で、アルディスに何言か伝えていた。


