静かに頭を下げるブレンダに続けるように、隣にいたカルロももう一度自己紹介する。
「皇国騎士学校に在学していた、カルロ・ル・クロースです。よろしくお願いします」
さすがに先ほどのアルディスの視線に参ったのか、カルロはそれだけで口を閉じる。
イグナスは周りからの促す視線に息をついてから、口を開いた。
「……カルロと同じく、皇国騎士学校に在学していたイグナス・コヴァート、です」
イグナスのは四人の中で一番短く、かつ丁寧な自己紹介という不慣れさにたどたどしくなってしまったものだったが、オリビアは彼がこれ以上続けないとみて自分が口を開く。
「アルディスの使用人としてやって参りました、オリビア・カスターニと申します。皆様のお世話も任されておりますので、何かあればお申し付け下さい」
オリビアはそう言って頭を下げた。
その場にいた全員の視線は、オリビアにから離れたあと、一度迷うような間をおいて、ある一点に集中する。
それは、全員の自己紹介を何の感情も浮かべずに見つめ、しかしただ一人何も言葉を発していないアルディスへだった。
「…………」
居心地の悪い沈黙が訪れる。
一応、全員依頼主であるアルディスの名前は知ってるし、身分が上のアルディスに自己紹介を強制することはできない。
そうは言っても彼女の無表情さは不気味であったのだが、ハリスは向けられた視線を居心地悪そうに見つめ返すアルディスを見て、とりあえず場を締めようとした。
「それじゃあ、……」
しかし次の言葉が紡がれるより先に、ハリスの目はわずかに動くアルディスの唇をとらえた。
「…………アルディス・ラ・シュミット…………よろしくお願いします…………」
呟きのように小さく漏れた声は、不思議と響き渡って全員の耳に届いた。


