欠点をつける所がないほど美しい顔立ちをした彼女が何の表情も浮かべずにまっすぐ見つめてくるのは、まるで精巧につくられた本物の人形のようでいささか不気味でもある。
カルロが、助けを求めるようにイグナスに視線を寄越した。
だが、本来こういうことは大の苦手であるイグナスは、気が付かなかったふりをしてその視線から目をそらす。
カルロは悲壮感を漂わせた表情で、恐る恐るというようにオリビアを見た。
オリビアの方でも困っていた。
アルディスのこのような態度は普通のことだったのだが、事情を知らない騎士達には異様に見えるだろう。
皇女であることは秘密なのだから、理由を説明するわけにもいかないし、アルディスの態度をたしなめるのも、本来身分が下の騎士が相手なので変だ。
場にいる全員が戸惑っているなか、その原因を作った張本人であるアルディスだけは、相変わらず無表情のまま、興味をなくしたようにふいとカルロから視線を外した。
誰もがどうしようかと迷っているその時、しかしその空気を変えたのは全く違う人物だった。
「……ああ、そう言えば、アルディス様とオリビアには僕たちの自己紹介はまだだったね」
やわらかな微笑を浮かべながら、カルロたちがアルディスの近くにいるのを見てそう言ったのは、ブレンダとともに周りを見回って安全を確認してきたハリスだった。
別の人物が入ってきたことで、その場にいた三人はもとの調子を戻す。
イグナスはさりげなくハリスのそばに戻り、カルロもそれにならう。
騎士四人がアルディスとオリビアの前に横一列に並んだのを見て、ハリスが口を開いた。
「アルディス様、お久しぶりです。ハリス・アルコンでございます。お会いするのは二年ぶりですね。今回の旅では、予定や指揮を任されておりますので、要望があればおっしゃって下さい」
自分がいい終えると、ハリスは隣のブレンダに目配せをして、自己紹介を促す。
「……ブレンダ・セルベンダスと言います。ブリーズンで傭兵をしていました。よろしくお願いします」


