(もうこんな時間なのね……。そう言えば、お腹も空いてるわ)
そんなことを考えていると、前方を見張りながら走っていた紫の髪の女騎士が馬を操ってこちらに向かって来るのが見えた。
すると、それまで口元に微笑みを浮かべていたハリスの表情が緊張を帯びる。
前衛の見張りが戻ってくる時は異変を感じた時──敵襲か?
「どうした?セルベンダス」
「いや、大したことではないんですが……。大雨が降ります」
「え?」
「あと半時もしないうちに、天候が悪くなることが予想されます」
(……え?)
オリビアは空を見上げる。まばらに雲が浮かんでいるだけで、太陽は顔を出しているし、雨が降りそうな気配は微塵も感じられない。
そこに、何事かと後方の護衛をしていた若い騎士二人も合流してきた。
「何か起きたんすか」
栗色の髪の騎士がハリスに問いかける。
答えたのはセルベンダスと呼ばれた女騎士だった。
「特に異常はない。……が、大雨が降りそうだから伝えに来た。それだけだ」
二人の騎士も揃って空を見上げる。
「雨……って、ブレンダ、何言ってんの?超天気良いじゃん」
「気安く名前を呼ぶな、クロース。……今は天気がいいが、風に湿気のにおいがする。じき、雨、それもかなり激しいものになると思う」
黙って会話を聞いていたハリスが口を開き、ブレンダに問いかけた。
「セルベンダス、これまで、君の予測は当たっているか?」
ブレンダは藤色の瞳をまっすぐに向ける。
「はい、外したことはありません」


